目次
かつて、アスベストを取り扱う工場において、健康被害をもたらしたという事件について、記憶に新しい人も多いのではないでしょうか。
アスベストは耐熱性や防音性、保湿性などに優れていることから、それまで建物をはじめ、さまざまな分野に広く利用されてきました。
しかし、アスベストによる被害は建設作業に関わっていた作業員だけではなく、製品を生産していた工場周辺の住民にまで及んだことから、アスベスト製品がほぼ全廃されることになりました。
そのため近年建築されるマンションにはアスベストが使用されることはありませんが、2005年以前に着工したマンションには、アスベストが含まれている可能性があります。
そのため大規模修繕の際には、アスベストに対する事前調査が必要になっています。
そこでここでは、大規模修繕でのアスベスト問題について、アスベスト調査や見つかった場合の対処法なども踏まえ、アパマン修繕プロが徹底解説していきましょう。
大規模修繕で注意すべきアスベスト問題とは
大規模修繕を行うマンションの中には、アスベストが含まれている建物が少なくありません。
しかし、なぜ建物の材質に使われているアスベストが、これほどまでに問題になってしまうのでしょうか。
アスベスト問題とはどのようなものなのかお伝えし、アスベスト対策の必要性について詳しくご紹介しましょう。
・アスベストとは
アスベストとは天然にできた鉱物繊維『繊維状ケイ酸塩鉱物』のことで、『石綿(せきめん、いしわた)』とも呼ばれています。
耐熱性、絶縁性、保温性、耐摩耗性などに優れていることが知られており、マンションをはじめ、さまざまな建物において活用されてきました。
アスベストにはさまざまな種類が存在し、広く活用されてきた『クリソタイル(白石綿)』、断熱保温材として利用の多い『クロシドライト(青石綿)』や『アモサイト(茶石綿)』、吹付け石綿として使用されていた『トレモライト石綿』などがあります。
日本では明治時代から海外から輸入されて活用されてきて、昭和40年代には輸入のピークを迎えています。
アスベストは極めて細い鉱物繊維であるため、研磨機にかけたり、切断機で切ったりすることによって飛散しやすく、また除去する場合においても飛散して、人が吸い込んでしまう恐れがあると言われてきました。
・アスベスト問題とは
アスベストによる健康被害については、冒頭でもお伝えした通り、記憶に新しいでしょう。
しかしそれ以前の1975年には、マンションなどの建築工事において、アスベストの吹付けによる保温断熱については、人が吸い込んでしまう可能性が大きいため、原則禁止されることになっています。
その後も、マンションにおいて、スレート材や防音材、断熱材、保温材などの目的で使用されてきたのですが、2005年に明るみになった健康被害の報告によって、現在では製造などが禁止されるようになったのです。
明るみになった健康被害とは、アスベストの繊維を吸い込むことによって生じる肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫であり、肺がんを引き起こす可能性があるとして、WHO(世界保健機構)でも指摘されています。
しかも、アスベストの被害は、吸い込んだからと言ってすぐに発症するものではなく、例えば、悪性中皮腫であれば平均35年前後という期間を経て発症すると言われています。
ただし、どのくらいのアスベストを吸い込めば悪性中皮腫や肺がんなどを発症するのかという点については不明とされています。
・アスベスト対策の必要性
アスベストの健康被害が問題になってから、マンションに使用する防音材、断熱材、保温材などにおいて使用することは法的に禁止されることになりました。
そのため、原則的には2005年以降に建てられたマンションについては、アスベストを含んでいることは違法建築でもない限りありません。
しかし、問題となるのは、それ以前までに建築されたマンションです。
2005年以前に建てられたマンションは数多く存在するからです。
もちろん、仮に防音材、断熱材で活用されていたとしても、アスベストが飛散することはありませんから、それで健康被害を及ぼすようなことはありません。
しかし、大規模修繕工事において、外壁や下地の補修が必要になった場合、壁に穴を開けたり、削ったり、剥がしたりすることによって、アスベストが飛散することが考えられます。
かつてアスベストの問題においては、近隣住民にまで被害が及んだと報告されていることからしても、大きな問題となってしまう可能性があります。
そのため、大規模修繕工事の際には事前調査としてアスベストが含まれているのか確認し、含まれている場合には除去などの対策を取る必要があるのです。
【2022年最新】大規模修繕で必要になるアスベスト調査とは
上記においては、アスベストの危険性と共に、マンションで活用されてきた経緯についてご紹介しました。
アスベストの繊維は、髪の毛の5,000分の1とも言われていますので、知らないうちに大規模修繕工事に取り掛かってしまうと、吸い込んでしまって健康被害を生じさせるリスクがあるのです。
そのため、2022年4月1日以降にマンションにおいて大規模修繕など一定規模以上の工事を行う際には、アスベストの有無に関わらず、アスベスト調査を行わねばならなくなりました。
アスベスト調査とはどのようなものなのかご紹介しましょう。
・大規模修繕でのアスベスト調査とは
以前から大規模修繕工事の際には、含有されている疑いがある場合にはアスベスト調査が求められてきましたが、法律の改正により2022年4月1日からは義務化されることになりました。
一定規模以上のマンションにおける解体や改修工事において、アスベストの使用に関する事前調査を行い、その結果を労働基準監督署、および地方公共団体に報告しなければなりません。
アスベストの事前調査とは、設計書など文書による調査、また建物に対する目視の調査を指しています。
報告対象となる工事は、
- 解体作業の対象となる床面積の合計が80㎡以上の解体工事
- 請負代金の合計額が100万円以上の改造・補修工事
と定められています。
そのようなことから、大規模修繕工事だけではなく、その他の補修工事においても該当する可能性があります。
例えば、次のような工事に調査報告が必要になります。
- マンションの給湯器の交換工事で、給湯器と作業工賃含めて100万円を超える
- マンションの給排水設備の改修工事で、請負代金が100万円を超える
- マンションの外壁塗装工事で、既存の塗装を剥離する必要がある
- マンションの防水工事で、請負代金が100万円を超え、既存の塗膜や防水材を撤去する必要がある
- アパートの屋根工事で、請負代金が100万円を超え、カバー工法のために建材に穴を開ける必要がある
などといったものが考えられます。
ちなみに、2023年10月1日からは、建築物石綿含有建材調査者講習の修了者、または日本アスベスト診断協会の登録者でなければ、アスベストの事前調査を行うことができなくなります。
・マンションに活用されているアスベスト含有建材とは
アスベスト含有建材とは、マンションの防音材や断熱材などにアスベストが含まれているもので、アスベスト自体が優れた素材であることからかつてはさまざまな箇所に使用されていました。
アスベスト含有建材は、以下に大きく分類されます。
- 鉄骨の耐火被覆材、機械室等の吸音・断熱材、屋根裏側や内壁などの結露防止材としての吹付け材
- 鉄骨の柱、梁等の耐火被覆成形板
- 天井等の吸音・断熱及び煙突の断熱としての断熱材
- 天井・壁・床の下地、化粧用内装材、天井板、外装材、屋根材等の成形板
このようにアスベスト含有建材は、大規模修繕工事において補修する箇所などに活用されている可能性があることになります。
・アスベストが見つかった場合
アスベスト調査によって、アスベスト含有建材が見つかった場合、
- アスベストの除去
- アスベストの封じ込め
- アスベストの囲い込み
といった対策が必要になります。
『アスベストの除去』とは、アスベスト含有建材や塗材を完全に取り除いてしまう工法のことを言います。
『アスベストの封じ込め』とは、アスベスト含有建材や塗材をそのままの状態で溶剤を吹付け、アスベストの繊維が飛散しないように外側から封じ込めてしまう工法です。
『アスベストの囲い込み』とは、アスベスト含有建材や塗材をそのままの状態で、外側から新しい建材で囲い込んでしまい、アスベストの繊維が飛散しないようにする工法のことです。
アスベストを完全に取り除いて安心できるのは『除去』ではあるのですが、処理期間が長くなってしまい、費用が高くなる傾向にあります。
『封じ込め』と『囲い込み』については、アスベストは完全に除去しないため完全に飛散しない状態ではありませんが、処理機関が短く、費用も抑えられるメリットがあります。
いずれの工事においても、それぞれにメリット・デメリットが存在します。
そのため、大規模修繕工事に取り組む前には、住民に対してしっかりと説明会を開催し、アスベスト調査の結果を報告し、見つかった場合の処理方法、費用などを伝え、理解を得るようにしましょう。
アスベストが見つかった場合の除去費用と活用できる助成金・補助金
大規模修繕工事の事前調査によってアスベストが見つかった場合、除去するための費用は実際にどれくらい必要になるのでしょう。
活用できる助成金・補助金制度と共に詳しくお伝えしていきましょう。
・アスベスト除去にかかる費用の目安
処理面積 | 費用の目安 |
300㎡未満 | 2万~8,5万円/㎡ |
300㎡~1,000㎡ | 1.5万~4.5万円/㎡ |
1,000㎡以上 | 1万~3万円/㎡ |
国土交通省では、アスベスト除去費用の目安を公表しています。
仮に、処理面積が100㎡の場合であれば、処理費用に200万円から850万円の費用が必要になります。
実際の費用については、施工業者に相談し、どのくらいの範囲で除去工事が必要になるのか、調査してもらう必要があります。
・アスベスト調査・除去で活用できる助成金・補助金
アスベスト調査や除去に対しては、厚生労働省において『住宅・建築物アスベスト改修事業』と呼ばれる補助制度が用意されています。
アスベスト調査においては、
① 対象建築物:吹付けアスベスト等が施工されているおそれのある住宅・建築物
② 補助内容:吹付け建材中のアスベストの有無を調べるための調査に要する費用
③ 国の補助額:限度額は原則として25万円/棟(民間事業者等が実施する場合は地方公共団体を経由)
除去工事においては、
① 対象建築物:吹付けアスベスト等が施工されている住宅・建築物
② 対象とする費用内容:対象建築物の所有者等が行う吹付けアスベスト等の除去、封じ込めまたは囲い込みに要する費用(建築物の解体・除去を行う場合にあってはアスベスト除去に要する費用相当分)
③ 国の補助率: 地方公共団体の補助額の1/2以内(かつ全体の1/3以内)
と定められており、地方公共団体において活用することができます。
一例をご紹介しましょう。
神奈川県川崎市においては、『民間建築物吹付けアスベスト対策事業(補助金制度)』が創設されており、アスベスト含有調査とアスベスト除去等に補助を受けることができます。
補助内容については、アスベスト含有調査に要する費用の全額を補助、アスベスト除去等については費用の2/3、上限額は300万円となっています。
また、その他の地域においても、神奈川県川崎市同様に創設されていますので、自治体に確認して相談してみるといいでしょう。
まとめ
マンションの大規模修繕工事でのアスベスト調査について、アスベスト問題の概要をはじめ、アスベスト調査の内容、費用相場や補助金・助成金について詳しくお伝えしました。
アスベスト問題は2005年に明るみになった健康問題を発端に、広く知られるようになりました。
問題以降は原則アスベストの使用を禁止されることになりましたが、それ以前に建てられたマンションにおいては、アスベスト含有建材が使用されている可能性があります。
2022年4月1日からは、一定規模以上のマンションにおける改修工事において調査報告が義務化され、アスベストが見つかった場合には必要な対策を講じなければなりません。
大規模修繕工事に取り組む際には、まずアスベスト調査を行い、見つかった場合には住民に対して除去工事などの理解を求めることが必要になります。
そのため、これから大規模修繕工事を検討しているのであれば、信用できる施工業者を選ぶことが重要です。
マンションの大規模修繕工事のことなら、神奈川県川崎市の地元に20年以上密着し、4,000件超の豊富な実績を持っている大規模修繕専門店『アパマン修繕プロ』にご相談ください。
まずは、『大規模修繕・マンション修繕&防水工事専門店ショールーム』にお気軽にお越しください。